『風邪』という言葉の語源 諸説あるようですが、東洋医学の世界では、古代中国において大気の動きのみでなく、身体に何らかの影響を及ぼす原因としての大気、そしてその影響を受けて生じる身体の状態を『風』と呼んでいたそうです。それが日本に伝わり、平安時代には同様の意味で『風』が使用されはじめ、『風病(ふびょう)』とも呼ばれました。 当時は上気道症状に限らず、下痢、腹痛、片麻痺、てんかん発作なども含んだ概念であったようです。それが鎌倉時代以降、身体に悪影響を及ぼす風という意味で『風邪(ふうじゃ)』と呼ばれるようになり、明治時代以降、それを『かぜ』と読むようになったそうです。 風邪症候群という言葉もあり、その考え方の発祥は西洋医学といわれています。考え方としては単一の独立した疾患ではなく、種々の病因によって起こる呼吸器、とくに上気道の急性炎症性疾患の総称とされています。
抗菌薬が効かない『薬剤耐性(AMR)』とは 1980年以降、従来の抗菌薬が効かない「薬剤耐性(AMR)」を持つ細菌が世界中に増加しています。背景には、抗微生物薬の不適切な使用が挙げられています。 耐性菌が増加すると、これまでは軽症で回復できていた感染症の治療が難しくなり、重症化のリスクが高まると同時に、命の危険も高まります。AMRに対して何も対策を講じない場合、30年後の2050年にはAMRに起因する死亡者数が1000万人を超えると推定された報告もあります。
『抗微生物薬 適正使用の手引き第一版』 『抗微生物薬適正使用の手引き 第一版』とは、抗微生物薬の不適切な使用に伴うAMR対策として近年、厚生労働省により作成されたものです。 臨床的にも非常に数が多く、主に経口抗菌薬の不適正使用につながりかねない急性上気道感染症、急性下痢症についての項目があります。今回は『急性上気道感染症』について触れたいと思います。
急性上気道炎の病型分類 次の3つの症状のいずれが、より前面に出ているかで病型分類を行います。 症 状 ①鼻汁などの鼻症状②咳・痰などの下気道症状③咽頭炎などの咽頭症状 病型分類 ①の場合…急性鼻副鼻腔炎②の場合…急性気管支炎③の場合…急性咽頭炎 この3つの症状が同程・同時系列で存在するものを感冒(風邪)と定義しています。
病型別の考え方・対応 感冒 まず、感冒(風邪)に関してですが、基本的に細菌感染の関与はなく、ウイルス感染が主な原因であると考え、抗菌薬投与は推奨されません。 急性鼻副鼻腔炎 急性鼻副鼻腔炎は、軽症の場合は抗菌薬投与を行いません。中等症または重症(症状や鼻腔所見より判断)の場合は、抗菌薬を検討します。 急性咽頭炎 急性咽頭炎は迅速抗原検査、または培養検査でA群β溶血性レンサ球菌が検出されない症例には、抗菌薬は推奨されません。A群β溶血性レンサ球菌の存在をスコアリングし予測するCentor Criteriaというスケールも参考にします。 急性気管支炎 熱があり、咳・痰などの呼吸器症状を伴う場合、急性気管支炎と肺炎との鑑別が重要になります。肺炎の診断に関しては、レントゲンやCTなど画像検査を行って診断することは難しいことではありませんが、呼吸器症状+熱の患者さんに対し、全例にそのような画像検査を行うということは、被爆や医療費の問題などを考慮すると、必ずしも推奨されることではないと思われます。 それでは、どのような患者さんに画像検査を提案すべきなのかというと、呼吸数やSpO2などに代表される「バイタルサイン」の異常を捉えることが重要である、と過去の研究より示されております。 ただし、呼吸器系の合併症を基礎疾患としてお持ちの患者さんや、免疫力を下げるような薬を使用されているような患者さんに関してはその限りではなく、肺炎を発症した際のリスクも念頭に入れ、精密検査を行うハードルは低くなり得ます。
おわりに 不必要な抗菌薬の使用は副作用、薬剤耐性菌、医療費等の観点から患者さんが被る不利益も無視できませんので、医療者側としましても、適切な情報提供を行い、相互理解をすすめる必要があります。 しかし、実際の医療現場では、症状のみでの鑑別が困難な場合や、非典型的な症状を呈する重篤な疾患が隠れている場合もあります。 肺炎を例に挙げると、呼吸数というのは一般の方にも比較的理解されやすいバイタルサインの一つかと思います。熱+咳・痰に加え、『呼吸回数が多くて苦しそう』といった症状が出現した場合には、肺炎の可能性を考え、重篤化する前に早めの医療機関受診を検討いただけますと幸いです。
ドクター紹介 呼吸器内科 古賀 哲Koga Satoru 感染症の原因はさまざまで、症状は似ていても、その原因によってそれぞれ治療方法が異なります。誤った治療方法は重症化のリスクを高めてしまうこともありますので、早めの医療機関受診をおすすめします。 医師紹介ページはこちら